虚空特異点様は、
ある身体の中で
暮らしていました。
本人は、
暮らしているつもりは
ありませんでした。
血管を流れたり。
赤い流れに乗って、
身体の中を旅したり。
なかなか快適でした。
ドン。
ドン。
ドン。
心臓は、
ずっと音を鳴らしていました。
虚空特異点様は
その振動が好きでした。
神経には、
小さな信号が走ります。
ピカッ。
ピカッ。
虚空特異点様は
追いかけて遊びました。
ある日、
脳までやってきました。
虚空特異点様は尋ねました。
「ここが、
意識の場所ですか?」
返事はありません。
記憶。
音。
匂い。
言葉。
たくさんのものが
行き来していました。
虚空特異点様は、
身体のあちこちを探しました。
でも――
「私」というものが
どこにあるのか、
見つかりませんでした。
そして、
ある日。
心臓の音が、
ゆっくり静かになりました。
神経の光も、
消えていきました。
気がつくと、
虚空特異点様は
知らない街角に立っていました。
看板には――
「意識の街」
そこへ、
買い物袋を持った
クマムシのおばちゃんが
歩いてきました。
「兄ちゃん。
どこ行きたいん?」
虚空特異点様は言いました。
「私は、
身体から来ました。」
クマムシおばちゃんは答えました。
「みんな最初は、
そう言うねん。」
クマムシおばちゃんは
道を指しました。
「あっちは記憶通り。」
「こっちは無意識横丁。」
「あそこは感情市場や。」
「その先は?」
虚空特異点様が聞くと、
クマムシおばちゃんは
首をかしげました。
「知らん。」
「案内してるのに、
知らないんですか?」
「そらそうや。」
「全部分かっとったら、
案内なんか
おもろないやろ。」
身体が終わったとき、
意識も終わるのでしょうか。
それとも――
私たちがまだ知らない
何かがあるのでしょうか。
この先は、
誰にも分かりません。
WHY?